世良心療内科クリニック

小樽市の心療内科、精神科 世良心療内科クリニック

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コラム

baby step

金木犀

早朝。
めざめると、階下で小さな足音がして、
母がすでに起きているのがわかった。
ベッドの中でしばらくじっと天井をあおいでいると、
やがて、新聞をめくる音が聞こえてきた。ぱらり、ぱらり。
静かな時間が流れていることに、ふと胸がしめつけられる思いがする。
平穏な日常が始まろうとしていることが、こんなにも尊いものだとは・・・。

ゆっくり起き上がろうとして、太ももに激痛がはしる。
うっ、私はベッドからおきあがることもできず、小さく呻吟して身をよじる。

そう、なにを隠そう!私は、車にはねられて負傷したてなのだった!!
正確には、接触事故。いや、抵触と言ったほうがいいくらい。
事故としてはささやかなもの。
信号のない横断歩道を直進しかけて、
抜け道から大通りに左折しようとしてきた乗用車と、ぶつかった。

あ”ああ”あああ”ああああ~~っ”"
それは、もう本当に一瞬のこと。
やばいっ!あ、うそ、くる!本当に?!わっ、私、事故るんだ?!
本当にこんなことってあるわけ?
頭の中でそんなこと思ってる間、視界のなかでは、車の映像が
コマ落としになっていた。
全体がスローモーションになるというよりは、止まった映像として、
車がグワン、グワン、2段階で接近して、もうすぐそこにあった。
止まる?止まんない?うわぁ~~。当たる当たる、ほんとに当たるぞ!!
そう心の中で繰り返せるくらい、時間は、間延びしてた。

衝撃を感じて、地面に投げ倒されてからは早かった。
「大丈夫ですかっ?!警察呼びましょう!」
車から降りてきた男の人が叫んでいた。
車道に倒れたので、私はほかの車に轢かれないか、あわてて後ろを見る。
大丈夫!だが、あわてて跳ね起きる。
男の人が飛び散ったバッグやら何やらを拾い集め、自転車を起こし
ガードレールに立てかけてくれる。
すぐそばのコンビニや通行人が、あぁあとかいいながら、こっちをみている。
2ブロックほどむこうには警察署。

「大丈夫ですか?怪我はないですか?」
運転してた人の奥さんも、すぐさまかけよってきて、心配してくれる。

そりゃ、怪我はあった。太ももやら、手首やら。
でも、思ったほど痛くはなかった。
脳内麻薬とやらが、どばっと放出されてたのかもしれない。

それよか、私が一番に案じたのは、人を待たせていることだった。

頭を打ってでもいれば、話は別だったろうが、頭は打っていない自信があっ
た。
骨も折れてなさそうだった。
この程度の痛みや怪我なら、ぜんぜん平気!
今しも、待ち合わせに遅れそうなことに比べたら!!

「警察を呼びましょう」
「いえ、私、すんごく急いでるんです。どうしてもいかなくちゃいけないんで
す!」
「いや、でも、保険とか・・・」
困惑する相手に、私は確かめる。
「あの、悪い人じゃないですよね?」
「え?えぇ!」
「じゃ連絡先教えてください!。私、急ぐんで、後で連絡します!」
「あ、は、はい」

そのまま、自転車にまたがろうとすると、
「あ、待って。ハンドル直します!」
と、相手の男の人がいうまで、自転車が壊れてることにも気がつかなかった。
ともあれ、走り出すと、自転車はガエラガエラものすごい音がして、
よろよろとしか走らなかった。

でも、目的の駅は目と鼻の先。
ものの2分で駅に着くと、デパートに駆け込み、あわてて母の姿を探す私。

そう、私が大事な事故処理を放棄してまで、一刻も早くと向かったのは、
なんと母親のもとだった。
「あら、早かったわね。私も今ついたところよ」
母は、むしろ私より数歩遅れてデパートへ現れた。
私は事故などまるでなかったかのように、なにくわぬ顔で笑い、
足をひきずってるのを悟られないように、ごまかし、
無事、母の用事に付き合った。
壊れた腕時計を、買い換えたいという、どうでもいいようなことに!!

ともかく母親を心配させないように。
いつから、それが私のファーストプライオリティになったのだろう。
ともかく、母一人娘一人のこの平穏な暮らしを維持し、決して不安にさせない
こと。
第一優先事項は、もう完璧に決まってる。

だから、先だって呼吸困難の発作にみまわれたときも、朝まで我慢したのだ。
もちろん、親を心配させまいとして、それがさらに事態の悪化を招き、
結果的にはさらに不安にさせるという本末転倒なケースも起こりうるだろうけ
れど。
でも、私は当分、できる限りは「自分より母の安心」を優先させるのだと思
う。

守る側から守られる側へ。
いつから逆転したのだろう。
そして、守る側というのは、どんなに不安の多いものだろう。
母親が一人で買い物にでかけると、帰ってくるまで落ちつかない。
事故にあわないだろうか。
怪我はしないだろうか。
子供の「初めてのお使い」を家で待つ親のような思い。

母親を待たせることくらい、なんでもないだろうに。
そう思った人も多いでしょうが。
80歳の母は、もはや、”待つ”ということができなくなっている。
現に、この日も、母は早く出掛けたくて、まだ私が2階で電話中だというの
に、
階下から声をはりあげ「先にいってるわよ~」
と勝手に出て行ってしまったのだ。
待ち合わせ場所も決めずに、だ。
決めたにしても、5分も待たせようものなら、勝手に場所を移動してしまう。
どうにか勘を働かせ、数箇所へめぐってるうちに、無事発見遭遇。
「お母さん!どこ行ってたのよ!!」
声を荒げても、毎度、涼しい顔。
「あらぁ!いいじゃない、会えたんだから」
そんな人を待たせますか?
ケイタイ電話があるだろって?んなもん、持ってません。
第一、もはや細かい字は見えない。
機械は苦手で、最近では洗濯機の動かし方も忘れてしまった。
あ、ちなみに、ダブルクリックができないので、
母がこのコラムを見ることは断じてありません(ほッ)

それにしても、人の足ってあんな腫れるんですね。
母と別れたあと、次の約束相手にどうしたの?と指差されて、
初めて気づいた。うわぁつ!
左足のスネが、最高級のルレクチェみたいになってる!
すなわち、スネが洋ナシのうんとリッパなやつみたいに膨れてるとでも申しま
しょうか。
ちなみに、事故から4日目の今日は、ゴールデンキイウイくらい。
両膝は、木星と土星みたい。
そこだけ膨らんでまだらワインレッドに変色しとります。

さて、ところで。
事故の夜、家に帰りついてから、相手の書いてくれた番号に電話すると・・・
留守電に切り替わった。
それではと、ケイタイの方にかけると、出たと思ったら、すぐプツリと切れた
!!
あぁ、やられた!?
いい人じゃなかったのか?!
なんで、せめて写メで現場を撮らなかったんだろう?
車のナンバーなど見てもいない!
どうしよう・・・。
あわててバッグをさぐって、その時初めて、
自分のケイタイとクレジットカードがないことにも、気づいた。
バッグの中身がふっ飛んだ時、
お財布は拾ってくれたから大丈夫と思っていたら・・・・。

結局、けっこう冷静だったと思ったのは大きな間違いで、
私ってば何も見てなかったんですね。

あ、翌日、相手との連絡はとれた。
第一声は、またしても「からだ、大丈夫ですか?」だった。
あ~~、よかった。
ちゃんと”いい人”だったのだ。
心配で私のケイタイに連絡したともいっていた。
(そのケイタイは、いまだ見つかってません~”~)

教訓は、いろいろある。
まず、人生には何でも起こりうるのだということ。
テレビや新聞でいろんな事故や事件を見ても、
しょせん、他人事とたかをくくってるけど。
いやぁ、起こるんですね、自分の身に。
それも、まったく普通の日々の続きのなか、突然に。

もし、私が母をまたせているからとあせっていなければ。
横断歩道を突っ切ろうとしたとき、車の先端が視界に入ったとき、
止まっていれば。
お互い、相手が止まるかもと期待せず、急停止していれば。
間一髪助かって、バカヤローと怒鳴りあうだけですんでたかもしれない。

車がコマ落しで近づいてくる時、頭をかすめた思い。
あぁ、もしかして、命を落とす瞬間もこんなふうに案外
あっけなく、簡単にやってくるかもしれないのかも・・・。

事故の翌朝、私はツアー会社にキャンセルの連絡をいれた。
実は、ソウル旅行を申し込み、電話でカード支払いの手続きをした直後、
出かけたその足で、車とぶつかったのだ。
なんか、縁起悪くありませんか?
しかも、そのカード自体、失くなってしまうなんて。

そもそも、はじめから妙にぎくしゃくしていた。
一緒に行く友人とは日程調整でもめ、やっと決めた飛行機は満席。
泊まりたいホテルも満杯。
二人の雰囲気が悪化するなか、友人は突如歯がかけ、手痛い出費。
それでも、無理にキャンセル待ちをかけたり。
あれこれつまづきつつ決定したものの、
実はもうひとつすっきりしてなかった。
海外旅行が決まったら、フツー嬉しくて、ついニヤついてしまうものだけど。

うまくいくときは、とんとん拍子でうまくいく。
なんだかつまづくときは、結局、結果ももうひとつ。
人生では、よくある、そんなこと。

喘息の発作に始まって、ここんとこ、なんだか、流れがよくない。
そんなときは、じっとしているに限る。
「もしかして、ソウルやめる??なんかイヤじゃない?」
友人が先にそう言ってくれて、ほっとした。

迷信深すぎ??
でも、半世紀以上生きてくると、なんだか、流れとかそういうのって
やっぱりあるよなぁと思ってしまうのです。

はて、この決断が、どうでるか?

今言えるのは、ともかく、皆さん、気をつけましょう!ということ。
ほんと、他人事じゃないんですから。

医師の診断は全治10日。
でも、打撲の痛みと痣は当分続くだろうとのこと。う~む。

私の膝から土星と木星が消えるころ、
少しは流れも変わってくれるだろうか。

窓をあければ、庭先からは甘いキンモクセイの香りが。

秋です。
気をとりなおして いきまっしょい!!

作家
: 正本ノン
プロフィール
   
星座
: 水瓶座
血液型
: A 型

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第2・第4・第5土曜日、日曜日、祝日

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