世良心療内科クリニック

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コラム

baby step

談志のお辞儀

談志を見た。
あの立川談志です。落語家の。
今の人には、爆笑問題の太田光が尊敬してる芸人って言ったらわかりやすいのか。
ともかく、若いころは天才と喝采をあび、人気実力ともにピカ一。
日曜日の人気テレビ番組「笑点」も、談志が司会をやっていた時が圧倒的に面白かった、座布団に価値があったというのは、大方の認めるところ。
一方、政治に首をつっこんで、一時は沖縄と北海道の開発庁長官なんて大層な役どころにもついたけれど、暴言だか失言だかで物議をかもし、あほらしくてやってらんねぇと、さっさと辞任した。
ついでに、議員もやめたんだったかな?
政治家の談志には興味がないので、いいかげんかもしれないけど、私の印象の中ではそんな感じだった。
せっかく才能があるんだから、落語に専念してくれればいいのに、
その後は微妙にずれてった気がする。
本当に才能のある者が必ずしも評価されず、情状やお手盛りがまかり通る真打ち認定に反発。立川流をぶちあげ、いっそ、金額次第で真打ちにしたらいいじゃねぇかと、本当にそれを実践した。
以降、周囲は彼を”師匠”ではなく、華道・茶道にならい”家元”と呼ぶようになった。
つまりは、天才にして革命児。変わり者。
が、それも落語への愛ゆえ?
そんな人間が、年をとる。
そんな人間も、年をとる。
近年の家元は体調がおもわしくなく、高座にあがるというだけで話題になるくらい。
また、気に入らないと(?)そもそも会場へ姿を現さないなんてことも、しばしば。
「え~~、まだ家元は姿を現しておりません。今日は大丈夫なんすかね?」
「さきほど、電話がありまして・・・。ともかく家は出た、と」
「ご安心ください。さっき、家元が無事、到着いたしましたですよ」
先にあがる弟子たちが、口々に実況して笑わせるのは、もう談志一門会のお約束。
「わかっております。えぇぇ、みなさんがお待ちなのが家元だってことは。もう、私のほうは、こう、さっさとやってね、さっさと・・・」
人気者の談春や志の輔までが、そうふってから噺をはじめるほど。
そんな家元が、喉の癌になった。
1年近い闘病を経て、ようやく復帰の運びとなったのが、3年前。
今回と同じ、練馬のホール。
なにせ、復活後初の高座ということで、会場には関係者やらマスコミも大勢。客席をぎっしり埋め尽くしたファンたちが固唾をのんで見守るなか、家元が口をひらく。
「・・・・・・ ・・・・・」
??・声が・・・出ない!
マイクはちゃんとオンになってる。
談志の口はちゃんと動いてる。
なのに、声がきこえない!!まさか?!
喉をやられただけに・・・もしや・・・。
客席が微妙にざわめきかけた矢先、マイクにぐっと身をかがめ、談志は、ニヤリ、笑った。
「へへ。大丈夫、いや、声は出るんですよ、ちゃんと。驚いた?」
緊張した空気が一気にゆるみ、ほっとした苦笑が場内に広がった。
談志はそれを、例のちょっと斜めに右肩を挙げたかっこうで満足そうにねめまわしてた。
ね?ほんと、人がわるい。

それから丸2年。
今回の病状はさらに深刻だという噂だった。
だが、先に出てきた弟子たちは、
「いやぁ、まだまだ死にませんね、あれは。なんせ、しぶといですから、うちの師匠は」とか
「ご安心ください。家元は元気で、いましがた、無事到着いたしました」
と、いつも通りに笑わせた。
そしてーーー。
その時が、きた。
出囃子がなる。
早くも拍手がわきおこる。
出囃子が続く。が、主役はいっかな登場しない。
出囃子がたっぷり3回はくりかえされるに至って、客席はひそかにざわめきだす。
「まさか、帰っちゃったわけじゃないよね?」
苦笑まじりのささやきがかわされたりする。
が、それでもなお、家元は姿をあらわさない。
拍手をし続けながらも、客席には不穏な空気がまじりだす。
「大丈夫なの?」
「本当に体調が悪くなったとか?」
不安になりかけたとき、ついに、彼が舞台の袖に現れる。
家元が現れた!と、一気に拍手が激しくなる。
がしかし・・・高座へ向かうその姿といったら・・・・・。
袴を両手でつかみ、一歩一歩、ゆっくりゆっくり、いや、ぎくしゃくギクシャク、一足ずつ懸命に運ぶ姿に、胸をつかれた。
そこにいたのは、明らかに病いを得た老人だった。
もしや、高座のある位置まで、辿りつくだけで精いっぱいなのでは?と、みんなが不安な面持ちで見守る中、元革命児はどうにか高座にあがった。
操り人形のように見えたのは、右手で袴の右膝のあたりをもって右足を運び、左足を運ぶ時は左手で左の袴をもちあげるようにして、動いていたからだろう。
歩くというより、それは本当に一歩一歩懸命に動いてるっ感じだったのだ。
あぁ、あの元天才が・・・!
かつての反逆児が・・・。時代の寵児が・・・・。

高座にあがった談志は、両手をつき、深々と礼をした。
万雷の拍手をうけ、彼は額を床につけ続けていた。
泣けた。
その姿に、彼の落語への敬慕と愛着が見えた。
長い長い礼のあと、おもむろに彼は口をひらいた。
出てきたのは、かすれきった声。
3年前みたいな、人の悪い冗談というのじゃなかった。
振り絞って、ようやく出た声が、末期のようなそのしわがれた声なのだった。
マイクはフルボリュームのせいか、時々、キュアンと変な音をたてた。
そのハウリング音に消されそうになってしまうほど、彼の声は小さく、カスカスだった。
もう、談志がそこにいてくれること、今、生きていてくれること、それだけでいい。
ファンのそんな思いのが表明が、あの万雷の拍手だったんだろうな。
談志は、つねづね、朽ち果てていく最後の最後まで悪あがきをも見せていくのが芸人だ、少なくともそれが俺の信念だといったことを、公言していたとか。
まさに、それを地で行っていたわけだ。
えらい。見事だと思った。
実際、彼がお辞儀をする姿だけで、胸がいっぱいになった。涙がでた。
がしかし。
客は、残酷だ。っていうか、正直だ。
初めは必死で、家元の一言一句を聞き逃すまいとしていた客席が、次第にだれていく。
いくら名人でも元天才でも、談志であろうとも、あぁ聞き取りにくくては、ついていけない。
また、前に出た弟子の志らくが”疝気の虫”なんていう、ちょっと古臭い話をマニアックにアレンジして、もうどっかんどっかん笑いをとり、爆笑につぐ爆笑でわかせたあとだけに、ほころびきった落語には、じょじょに倦んでいったとしても、いたしかたない・・・。

落語が終わり、彼は再び深々とお辞儀をし、素晴らしい拍手のあらしのなか、幕が下りた。
早々と席をたつ人がいる。
そんななか、幕が再びあがり、談志が顔をあげ、会場を見渡した。
下唇をちょっと噛んで、ぼわっと客席を見上げる。
ありがとございましたと、正座をくずし、すわりなおす。
両手をあぐらをかいた膝にあて、軽くそりぎみになって、雑談をはじめる。
話の中身は覚えてない。
なんか病状にまつわることとか、政局にまつわるちょっとした毒舌とか、だったかな?
憶えているのは、雑談も終わり、じゃぁとあいさつした談志が、幕が下がるまで、その胡坐に両手をついたかっこうで、客席を見上げていたこと。ちょっと口をあけて。
疲れ切って、でも去りがたくて、離れがたくて・・・?
愛着と無念。
いい尽くせない思いが去来していただろう、その姿が今も目の奥に残っている。

談志を見ていると、必ず思い出す一節がある。
私の大好きな海外ミステリー、ジャック・ヒギンズ「鷲は舞い降りた」のなかの一文。
主人公のひとり、元IRAの闘士でありながら、今はナチスとともにチャーチル暗殺を狙う男リーアム。
その彼が、潜伏先で図らずも恋におちた相手に残した置手紙の文句が、それ。
“おれが心底から愛しているモリィ。
かつてある偉大な人間が言ったように、おれはある時期に人間が変わり、以来、二度と元のおれに戻れなかった”
談志と直接重なるのは、この部分だけ。
へへ。
でも、あまりにこの手紙が好きなので。つづけてしまおうっと。

“おれが、ノーフォークへ来たのは、ある任務を果たすためで、もっと利口であるべきはずの醜い田舎娘と、生まれて初めてで最後の恋をするためではなかった。今頃は。お前はおれの正体を知っていることと思うが、なるべく考えないように努めてくれ。俺にとって、お前と別れることが、すでに充分な罰なのだ。だから、そこでおしまいにしようじゃないか。短かったが、楽しかった。リーアム”

あぁ。なんて素直じゃないんでしょう。
でも、だからこそ、このひねくれ者が吐露する心情が切なくて、泣けるのか。
もしかして、談志の落語への真情と、この手紙の思いは重なってる・・?

いつからか、噺の途中に、”文楽ならこうやったね”"志ん生だとこうやるとこだが・・・”とか、話の腰を折ってまで、論評をくわえずにはいられなかった談志。
それもこれも、落語を愛するあまりゆえってのはわかったけど、もっと素直に普通に、彼の噺を聞きたかった気がするのです。

でも、あんな胸うたれるお辞儀は見たことない。

それは、一つの課題のように、心に残ってる。
う~~~~む。
答えが出る日は来るのかな?
ともあれ、今は春を待ちましょう。
では、また。

作家
: 正本ノン
プロフィール
   
星座
: 水瓶座
血液型
: A 型

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第2・第4・第5土曜日、日曜日、祝日

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