世良心療内科クリニック

小樽市の心療内科、精神科 世良心療内科クリニック

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コラム

baby step

笑いながら、わたしたちは・・・

“おっはあ~。
ティッシュ持ったか?
宿題やったかぁ?
顔洗ったかぁ?
って、朝っぱらから、ドリフかよ?(へへ)
ともかく、忘れものしないでね。
明日の予定決まったら、即、ご連絡あれ。
願わくば執刀医がイケメンでありますよう”

早朝、そんなメールを送ったのは、友人が入院するからだった。
一切親族のいない彼女は、最初、名前だけ貸してくれといってきた。
「あのさ、手術の保証人のとこにノンちゃんの名前つかっていいかなぁ?」
「いいけど。なに、サイン偽装すんの?」
「うん。いい?ほら、あんま時間ないからさ、三文判買ってきて適当に書いちゃおうかと思って」
「いいけど。手術とか、いいの、立ち会いいなくて」
「うん。大丈夫。いいって。へへ。一人でも平気だから。心配しないでいいよ」

しっかりもののTちゃんは、受話器のむこう、からり笑った。
少しして、メールもきた。

“旅行同様、天涯孤独な人間は、入院するのも一人じゃダメそうです。
今回は肘だからイイけど、これが脳とかもっとほかの手術だったらきっとすごく面倒なんだろうね。
こういう、入院だぁ手術だぁってことになると、「おひとり様」は世間から浮きがちだね。
特に私は親戚もいないしね。

こないだ実母の相続を処分するって決めた時、自分の戸籍謄本を見て、つくづく思ったんだよね。
なんてシンプルなんだろうって。”

詳しい事情はしらないが、いわゆる腹違いの姉妹が何人もいたり、
やれ産みの親だ、育ての親だと、彼女の家が複雑らしいことは、
学生時代からうすうす知っていた。
だが、複雑なはずの彼女の戸籍謄本には、
父の名前と実母の名前、そしてその下に彼女の名前があるだけだった。

“姉妹とも実家とも縁を切った私だけど、そんなことしなくても
彼らとは父を介しての縁しかなく、父親の死でそれも終わっちゃってたのねぇ・・・・。
やらずもがなのことしてたんだねぇ~”

ともあれ、入院前に一度会おうよということになった。
彼女の指定で、ウイークディの夕刻、新宿ピカデリーの地下
、無印良品がやってるカフェで、待ち合わせた。
んんん??いないぞ・・・と思ったら、入り口からまっすぐに見える奥まったテーブルで、
本を読んでいる”きれいなお姉さん”風な人が目に留まった。
うっそ、Tちゃん?

「ねェ、髪切った?なんか、可愛くなってんだけど」
私が文句(?)を言うと、彼女は苦笑した。
「変わってないよ。気のせい」
「いいよねェ、気のせいで、若くみえるんなら」
そこへ、もう一人の友人が到着した。
「ね、ね、ここおしゃれね。さすが、Tちゃん。
わたしなんか、こんな若者のくるようなとこ、もう全然よ」
K子はあたりをキョロキョロしながら、腰をおろす。

MUJIカフェのテーブルは、書き物にはぴったりだった。
Tが書類をとりだし、私は神妙な面持ちで、手術と入院の承諾書にサインをする。
と、K子がひそかに笑いだす。
「ねぇ、ノン、それ冗談?なに、その釘みたいなの。字?」
Tがあきれる。
「冗談じゃないよぉ。ちゃんと書こうとするとこうなるんだっつうの」
おもえば、私、はるか昔、OLをやめるにあたって退職届をだしたところ、
「なんだ、これ。ふざけんてんのか?」と、受理されず、
書き直しになったという経験があるのだった!!!
そう、緊張すると、なんか字がばらけて、解体してしまうんでありました・・・・。

「なに、これなら自分で偽サインした方がましだったって??」
「う~~ん」
「否定しないんだね!」
「う~~ん」
「なんだよぉ~~~っ!!」
だははは~~~っ。
3人ともに爆笑し、60女はそれから近くの店へと席を移し、
入院を翌朝に控えたTのために、最後の酒池肉林をくりひろげたのだった。

「すごいね、野茂や松坂がかかったやつでしょ、それ。
使いすぎで、肘の軟骨がすりへって、ネズミみたいにちょろちょろ動き回るってさ」
「どんだけ運動してんねんって話だよね」
「危険性はほとんどないんだけどさ。全身麻酔だからね、一応」
「あぁ、私の知り合いで麻酔医だったんだけど、やめた人いる」
「なんでなんで?」
「あのさ、全身麻酔って、いわば人を仮死状態にすることなんだってさ。
今は技術も進歩して、事故とかほぼ100%ないんだって。
でも、その人はなんか精神的負担がもうイヤで、麻酔医やめて、
今は名義貸しっていうかさ、地方の病院へ月1で行って、
おいしいものたべて、あたり観光してかえってきてるよ」
うっそぉ~~~っ?いや、ほんとだって!

私たちの話は、いつものように本題からどんどんはなれ
、いつのまにか、なんのために会ったのか忘れてしまうほど、
がやがやわいわい、勝手なことをいいあっちゃ笑って、おひらきとなった。
最後だけ、神妙に、Tに、「じゃ、がんばってね」
と、いいはしたが、照れくさくて握手もハグもしないで別れた。

翌日、無事入院したむね、メールがあった。
仕事終わりに、ちょっとだけ、顔を出した。
「え~~~っ、なんでぇ、来なくていいのにぃ」
と、彼女は言ったが、ちょうど、執刀医がやってきていて、私は保証人らしく頭をさげた。
「じゃ、Tさん、明日は頑張りましょう」
医師は、そう繰り返して、去っていった。
「けっこうイケメンじゃん」
「そう?なんか頼りなくない?頑張るのは、わたしじゃなくて、お前だっつうの」
「その通り!」
私たちは肩をすくめて笑いあった。

翌日。手術は1時半開始。
1時までに来てくれればと、昨日担当に言われた通り、
病室についた私をまっていたのは、空っぽのベッドと、血の付いたシーツ!!!
ナースセンターに駆け込んでいくと、たった今、手術室にむかったところだと聞かされた。
え~~~、邪魔にならないよう、ジャスト1時に来たのに!!!
血のあとは、朝の点滴の際、研修医がミスったものらしく、
今日は手術がたてこんでいるので、少し早めに出たんですと、
看護師さんになぐさめられたりした・・。

友人らからは、手術の成功を祈るメールが、私にまできたりした。
「付きそい、ご苦労さん。のんちゃん一人にまかせて、ごめんね。
ありがとう。結果、わかり次第よろしくね」
・・・・手術時間に間に合わず、しっかりねと手を握りしめることもできなかったのにさぁ・・・
あぁ、恥ずかしい。
それに、手術の間中、わたしってば、すぐそばの川べりのおしゃれなカフェで、
アールグレイなど片手にのんびり風にふかれていたのだ~~~~っ。
全然、ご苦労でも、頼りがいのある友達でもないんだよぉ~~っ。

手術が終わったら、病院から携帯に連絡が入るはずだったが、
さすがに今度は早めにもどったおかげで、ばっちり間に合った。
ストレッチャーに乗せられて、Tが戻ってくる。
「軽いから、大丈夫だよ」
いいなぁ、ベッドに移すとき、そんなこと言われてんんの、Tったら。
廊下で待たされている間、すかさず、仲間にご注進メールをうつ私。

看護士さんたちの後ろから、のびあがってのぞいていると、
タオルケットにすっぽり包まれた彼女が薄目をあけ、手をだし、小さく振った。
よかった。元気だ。
ほっとすると、同時に、なんだか胸がつまった。

人一倍がんばりやさんの彼女は、弱音をはかない。
不安は実行力でカバーする。
たとえば、癌になりたくないよねぇと、みんなで言ってると
「私はもう、保険、特約コースに申し込んだ」とか。
一人暮らしは、病気になると困るからと、ジムでやれ水泳だヨガだズンバだと鍛え、
結局、仲間のなかでは一番健康体を維持してたりする。
実は脳に動脈瘤をかかえているのだが、定期検査を怠らず、
医師とも話し合いを重ね、しかるべき処置をとるべく連携を深めている。
つまるところ、まったく病気に負けていない。

だが、さすがにまだ麻酔のさめきっていない彼女は、弱弱しく見えた。
酸素マスクをされ、それでも、そばに行くと、
「ありがとね。待ってるあいだ、何してたの?」
と、まずは私のことを気遣った。
痛い痛いと、眉間にしわをよせ、うなる彼女に少しつきそい、
やがて鎮痛剤がきいて眠りに落ちたのを確かめて、その日は病院をあとにした。

夜8時すぎ、もう彼女からメール第一報が入った。
“今日も長時間ありがとう。

まだ酸素マスクやも点滴などがついたままでトイレにも行けない状態だけど、
写真を撮れるくらいにはしっかりしてきたので、臨場感ばっちりの写メを送るぜ!”

ばかですね。昨今の60才って。
でも、私はたしかに臨場感ばっちりの写真に大笑いしたのだった。

その後もくだらないメールが友人たちとの間をいきかい、
5日間の入院はあっというまにすぎた。
仲間たちがそれぞれドトールやエクセルシオールの飲み物を持ち込み、
談話室でキャハキャハやってると、本当にそこらのカフェで会ってるみたいだった。
たまにしか会わないメンバーが、ものの10日たらずの間に、
2度も3度も顔をあわせて笑いあうって、悪くなかった。

“がんばるのは、おまえのほうだろ”の医師は
夜、おどるべきのろのろさでへたっぴいな包帯を巻きまきして帰ったと、
Tがメールに書くと、だれかが、
“入院してる時って、一般病棟の時間が終わると、
なんか不思議にインティメイトな空気が全体に流れるよね”と、
返信し、みんなで盛りあがった。

退院から1週間、ギプスもとれ抜糸もしたものの、
傷あとがなおるのと、完治するのとはちがうということで、
骨をけずられ、あれこれやられた(?)彼女の肘は、
元のようにもどるまでには、なお2か月ちかい時間を要するとのこと。

だが、気の早い私たちは、明日、復帰祝いと称して、また集結する。
下北沢で、春風亭昇太の落語に大笑いしたあと、ワインや焼酎でもりあがるだろう。

遠くの親類より、近くの他人だっけ?
そろって還暦をすぎた私たち同級生は、
みんなで助け合ったり支えったりすることを、
これから徐々にまなんでいくのだろう。

不安や恐れは、あほな笑いで覆いかくして、とりあえず、元気そうにいくだろう。
脳は意外とバカだから、笑ってると笑ってるような気分になれるのだと、どこかで聞いた。

気がつけば、みずみずしい新緑の季節は、はや過ぎ、木々は濃い緑に覆われている。
空は青く、風は初夏のきざしを運んでいる。
私たちは、今日も笑いながら、いこう。ね?

作家
: 正本ノン
プロフィール
   
星座
: 水瓶座
血液型
: A 型

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第2・第4・第5土曜日、日曜日、祝日

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