世良心療内科クリニック

小樽市の心療内科、精神科 世良心療内科クリニック

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コラム

baby step

風たちぬ

土曜の朝の電車に乗る。
通勤客の姿はほとんどなく、学生の数もごくわずか。
いつもよりはずっとすいてる席に大股を開いて腰を下ろしているのは若い男の旅行客。
足の間に流行りのダブルジップタイプのカラフルなスーツケースをはさみ、なんだか得意気(な気がする)。
乗りこんできた瞬間からずっと仲間の嫁姑問題をうだうだ話しているのは、
70超えとおぼしきおば様3人組。
これから10数年ぶりに友達どうし京都へ2泊3日の旅にでるのだが
(全部、つつぬけ(~_~;))3人とも大ぶりのポシェットを斜め掛けにしたうえに
、キャリーバッグ&腕には目いっぱいふくらんだボストンバッグまで。
なにをそんなにつめこんでるわけ??
噂ばなしはやがて親戚の病気や介護問題、葬儀話にまで及んで、
いいかげんうっとうしいのだが、駅も4つ5つすぎるころには、
いやいや、なるほど人生山あり谷ありなわけやね・・・と、
心のなかひそかに相槌をうったりしてて。
「わたしなんて今朝なんて5時起きして、3日分のおかずこしらえてさ、
えらいでしょ。もう、やんなっちゃう」
「あら、ちょっとやだ、品川まであとなんこ?」
不慣れな電車にあわてるおばさんたちに、
「大丈夫、まだ少しありますよ」と、教えたくなるのだった。

乗客のほぼ9割がたがスマホをヒョイヒョイやってる中、
前のつり革の女子学生はひたすら参考書に目を落としてる。
息をするのも忘れてるんじゃない?ってくらいの集中っぷり。
ちらと表紙を見ると、"東大過去問"のタイトル・・・!!
ところどころすれていて、使いこまれてる感ありあり。
紺色の制服に同じく紺色のカーデガン。桜を模した校章はどこぞの名門女子高か?
ししえ~~~っ、かっちょえぇ~~っ。
がんばってね!
生真面目な表情を崩さないまま降りていく女子高生の背中に、エールを送った。
そうか、もうそんな季節なのね。

祈る、と書こうとして、うっかり"祝"と書いてしまったのは
、当時イケメンと人気急上昇中だった某俳優。
彼の写真集のエッセイのため、私は彼とふたり、広尾の有栖川公園内の図書館にいた。
都心なのに、たっぷりの緑に囲まれた中央図書館は、
開放感があってちょいセレブ感があるというか、選ばれし者に近づいてる気分というか、
ともかくなんだかちょっといい気分になるうえ、広くて
、席とりの大変な受験生にとってはちょっとした穴場だった。
高い天井の下、はりつめた空気が漂う静まりかえった図書館の大きな机で、
わき目もふらぬ受験生にまじって原稿を書くのは、
いつも人に追われてる人気者の彼にとって、たぶん、つかのまの息抜きだったろう。
タレントのエッセイというと、たいがいはゴーストがいるものだけど、
彼には自分で書くよう勧めた。
南の島の小さな港で舟を待つ人を、"はしけの上には佃煮みたいに人がいっぱいいて、
ゆったり手を振っていた"なんて、ちょっとおもしろい表現をしたりした。
でも、長い文章は書いたことがないというので、
私がプライベートでちょこっとフォローすることになった。

「ん、で、そのとき、一番初めに感じたのは?」
「じゃ、そのあと、どうしたいと思った?」
とかとか。
短い質問をすると、彼が鉛筆をあごにあてたりしながら、
(まだ、パソコンもノートブックも普及してない時代だったのね!)
そうだなぁぁと、ぽつぽつ答える。
「そしたら、それ、そのまま書けば?」
図書館は会話禁止が原則だけど、筆談と小声のやりとりは、
授業中のおしゃべりみたいで、私にも楽しい時間だった。
そんな調子で、彼の筆はそこそこいい感じに進んでく。
が、少しすると、すぐ肩をすくめて、めくばせする。
「ね、ちょっと、出る?」
外を指さす。
もう、仕方ないなぁ。
ロビーに出ると、ひいやり気持ちのいい空気が流れてる。
窓の外はもうすっかり晩秋の気配だ。
彼が自動販売機でコーヒーを買ってきて、手渡してくれる。
あったかい紙コップを両手で囲みながら、一息ついていると、
「あのぉ、・・・**さんですよね?サインしていただいてもいいですか?」
女子高生が、私にたずねてきた。
マネージャーと思ったのね。う~~ん、都会の子は礼儀正しいなぁ。
「だって?いいよね?」
「・・いいけど。オレなんかでいいの?」
「え~~~っ、大ファンなんです!もうすぐ受験なんで頑張れって書いてもらっていいですか?」
「いいよ」
と、彼は女子高生から渡された数学の受験ノートに
"祈る"と書こうとした。
「あはっ、点つけちゃった!これじゃ、祝合格になっちゃうよね・・」
「いいえ、むしろうれしいです!がんばります!」
ぺこりお辞儀をする彼女に、彼はちょっぴり頭をかいて、握手した。
「じゃ、応援するんで」
あらま、なんかちょっとかっこいいんですけど?
私は心のなかで少し笑った。
そのやりとりに気づいたほかの生徒たちで、ロビーは少しざわついたが、
握手を求める勇気ある女子たちが3人ほどあとをおっただけだった。
彼は苦笑いすると、「もどる?」とたちあがった。
エッセイは順調にすすみ、この半日だけで、ほぼしあがった。
御礼にって、私はなにかおいしいものでもごちそうになったんだったかな?(へへ)
受験シーズンになると、ときどき思い出す若き日のひとコマだ。

図書館といえば。
スェーデン旅行のおみやげに、ストックホルムの図書館の貸し出し袋をもらったことがある。
エコバッグより一回りは大きくて、一澤帆布店製品なみにしっかり丈夫そうな布バッグは
シンプルそのもの。
「でも、ちょっといいでしょう?」
本好きの友達はにっこりした。
「のんちゃんなら絶対喜んでくれると思ったの」
『ミレニアム』シリーズが映画化されて人気が出るはるか前から、
北欧ミステリーって独特の暗さがあって面白いのよとおしえてくれた彼女とは、
いつも映画や本の話でもりあがった。
海外旅行先でも
「本屋さんや図書館があるとのぞかずにはいられないのよねぇ」という彼女ほどではないが、
私もときどき旅先で本屋や図書館をのぞく。
実はトイレを拝借するためだったりするのだが・・・。

この秋、その女友達から一冊の写真集をもらった。
「わぁ、ステキ!あ、ここ,行ったことある。リッツォーリ!」
「そう、ニューヨーク行ったとき、私も行った。デニーロの『恋におちて』に出てきたんだよね」
「あ、ここで買った本、おみやげにもらったことあるよね?」
「そうそう、中身より包装紙をあげたかったってわらえるよね」
「わぁ、これが本屋さん?すごいね。どこのオペラハウスって感じ?」
本好きの彼女がくれたのは、世界中のかっこいい書店を集めた写真集だった。
なに、そんなものが面白いかって?
うん!眺めてるだけで、めっちゃ楽しいのです。
いつか、この本屋に行きたいなぁ、行けるかなぁ。
チェコかぁ、うっそぉ、こっちはペルー?
どこの国でも、美しい本屋ってあるもんなだなぁ。
ページをめくりながら、私はつかのま時間旅行をしているのかも。
見知らぬ国の見知らぬ町で、こんなふうに、だれかが本を求めてる・・・・って素敵じゃない?
すくなくとも、そこには諍いも闘いもなく、自分と向きあう静かなひとときが流れているんだもん。

9月に美しい写真集をくれた彼女が、10月も終わりの今、突如、重い病を患い入院している。
海外ミステリーはくまなく読みつくしているといっても過言ではない彼女が
「ミステリーって、結局暗いのよ。気がめいってだめ。なんか、何も考えないでいい、
バカみたいに笑える本が読みたいの」
と、無菌室からの電話で泣いていた。

ほんのちょっと会わない間に、病いが襲いかかり、人生を一変させてしまう。
エボラや御嶽山や3・11の災害を例にだすまでもなく、すべての災害や事故は、
年齢も性別も国も関係なく、突然襲ってくる。
でも、すべては遠いどこかのできごとで、自分だけはなんとかなるんじゃないか、って
根拠のない楽天的思いのなかで、わたしたちは生きてるんだなぁってことを、痛感する。

「このわたしがボケるなんて!」
と、さめざめ泣く母も、私も。
なかなかにつらい秋のなかにいる。
だが、みあげれば、空はどこまでも青く、高い。

お天気でさえあれば、私の1日は布団干しで始まる。
昼の日差しをあびてぱんぱんにふくれたお布団は、いかにもいい夢を約束してくれそうだ。
さっきはタオルケットも干した。
このきもちいい青空の下、一日が平安でありますようと祈りをこめて。

ひいやりした風が憂いをすこし運び去っていってくれる。
美しい秋。
人生の秋。
"風たちぬ、いざ、いきめやも"ってやつです。
病いの淵にある友人や、みんなの安寧を祈って。
では、また!
作家
: 正本ノン
プロフィール
   
星座
: 水瓶座
血液型
: A 型

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第2・第4・第5土曜日、日曜日、祝日

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