世良心療内科クリニック

小樽市の心療内科、精神科 世良心療内科クリニック

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コラム

baby step

夏の終わりとカセットテープ

♪アレクサンドラァアレクサンドラァ~ ソ連映画『モスクワは涙を信じない』の挿入歌。 地方からちょっとしゃがれた低音の歌声を聴きながら、今これを書いてます。 出てきた女の子が都会で就職して、 恋したり傷ついたりしながらも懸命に生きて、ほろ苦さも知る大人になりましたっていう、 ありがちなストーリー。 しかも、なにせ30年も前のソ連時代の作品だから、可愛い女の子っていってもう限度があるし(すいません。偏見かしら?)男性陣にいたっては、さらにもう・・・・。 けど、面白いのはバリバリの共産圏だろうとなんだろうと、チャラ男はチャラ男で そのすかしかたや心の無さは万国共通だってこと。時代も越えてるし。 主人公の田舎娘は、この手の心なし男にいとも簡単に。ひっかかる。恋におちる。 放送局につとめるやり手男は、くどく時、ベサメムーチョのレコードをかける。 ラテンムードたっぷりのサックス演奏は、 当時はきっと都会的でいかした恋の演出だったんでしょう。 むろん、絵に描いたように、この恋は田舎娘が遊ばれ、捨てられて終わる。 傷ついた娘を見守る、大人のいい男がいるのも、メロドラマの定石。 あ、それとも、少しあとになってから出会うんだったろうか。 なにせ昔一回見ただけだから、ちがっててもお許しを。 ネットで見れば、正しい筋はわかるけど。 なんだろう、記憶だけをたどって、語りたいこともあるんですね、きっと。 10年くらいたってるのかな? 娘は今ではそこそこ成功して、そこそこ豊かな暮らしをしてる。 悪くはない人生。 けど、恋人のいない人生はなんだかちょっとわびしい。 仕事で何か問題があったんだか、なんだか。 ともかく疲れた彼女に、暗い空の下、男は焚火をくべ、コーヒーをいれてくれる。 そして、ギターをとりだすと、弾き語りはじめる。 ちょっとしゃがれた声には人生の苦みと、慰めがある・・・。 いかにも寒そうな晩秋のモスクワ。 ひろがるのは、花もない雑草だらけの野原。 でも、ぱちぱちはぜる焚火の色は暖かくて、かじかんだ心までゆっくりととかしてくれる。 たぶん、その後、一度テレビで流れたのを、友人がビデオに撮ろうとして失敗、かろうじて、 この歌の部分だけカセットテープにとって、くれた。 一時、いまは無き六本木WAVEや渋谷のワイズ&フールでCDを探したことがあるけれど、 手に入らないまま、幾星霜。 いまはネットで手にはいるんだろうけれど、 神田神保町のロシア書店まで探し出したりした日々が愛しくて 検索しただけに終わってしまってた。 “ビソツキー”というのが、その歌手の名前。 店でうっかり”ソビエツキー”(ほら、ソビエトの人なんで)を探してるんですけど・・ なんて言って、怪訝そうにされたことが、なんだかやけに懐かしい。 貴重な♪アレクサンドラ~は、よけたけれど。 実は只今、本やカセットならびにビデオの絶賛処分中なのだった。 なにもいまはやりの”終活”にはいったわけじゃありません。 断捨離なわけでもない。 ただ、あまりに量が多くて、母が毎日のようにくりかえすのだ。 「いいかげん、どうにかならないの?」 母はつくづくうんざりしたようにため息をついて、私の部屋を出ていく。 “エントロピーは増大し、カオスが発生する” 昔、哲学科の友人が、部屋がかたづけられない言い訳に、 わざと難しい言葉持ちだすもんだから、みんなで大笑いになったことがある。 「ものが増えたって、素直に言えばいいじゃんねぇ?」 「そうだよ、単にかたづけられなくて、足の踏み場もないだけじゃんねぇ?」 「何がカオスだよね?エントロピーってなんですか?」 「♪レーザーデイスクは何者だっ?!ってね」 吉幾三の『田舎のプレスリー』の突っ込みなんて、いまどき、説明しても通じないかしらん。・・・・・ [続きを見る]

残暑ざんす

水道をひねると、ぎょえっ?お湯って?! クーラーの効いた部屋から1歩でると、フローリングの廊下は床暖状態。 なんとゴキブリまで現れた! 我が家ではとうに絶滅したはずなのに。10年ぶりだ(;;) アスファルトがゆるむ道には、ゴキブリならぬ蝉の死骸がぽつらぽつら落ちたりしはじめてるけど、いまだ蝉しぐれはふりやまず、東京は厳しい残暑が続いてるってわけです。 近所のスーパーにも3日に一度くらいしか行かないようにしているけれど、 やむをえず外に出るときは、麻を着る。 上はベージュが白の開襟。下は紺のだぼだぼパンツ。 そして、欠かせないのが、やはり紺麻の大判ストール。 ゴマ斑まじりの模様がオリエンタルっぽいやつ。 それを”桃太郎侍”とかお能の人が出てくる時みたいに両手で頭の上にかざせば、 はい、パーフェクトなお出かけスタイルのできあがり。 腕はちょっと疲れるけど、日傘より断然軽いし、 なによりちょい時代劇のお姫様気分なのが楽しいんざんす。 なぬっ?怪しいベトナムのばあさんってかい? 謎のイスラム教徒みたいですと?? た、たしかに・・・・道理ですれ違う人たちが、ほぼみなさん、 ちらちらとこっち2度見してくわけです・・・。 でも、やめないよ~。 ほんとに、気持ちいいんだから。 だって、風がなくても、歩くとふわり自分の速度でストールがふくらみ、 やわらかくなびくんだよ? つまり、”風”が生まれるのです。 最初のうちはストールの端っこを両手で普通に握っていたけれど、 そのうち、人差し指と中指にまきつけると落ちにくいし、 見た目ちょい優雅にもなることに気づいた。 ついでに背筋も少し伸びて、いつもよりちょっと涼やかな気分にもなる。 気がついたら頭の先から足下までユニクロだったりする私だけど、 そっか、おしゃれな人たちって、いつもこういう気分なのか? 気持ちが若干リフレッシュするというか、 清潔なシーツにくるまれた時みたいな清らな気分といいましょうか。 そういえば、昔、タイでだまされてサリーを買ったことがある。 パタヤ・ビーチのリゾートホテルは、な、なんと偶然にも かの伝説のファッショナブルポルノ『エマニュエル夫人』パート2のロケ地にもなった場所だった。 濃い緑陰のもと、吹き抜けのロビーには南国特有の甘い花の香りが風となって、 やわらかくほほをなでてゆく。 小さな池には白鳥が羽を休めていて、その手前には大きな仏像が鎮座ましましている。 香炉からはゆったりと香が立ちのぼり。 素足になって額づけば、大理石の床がおでこにひいやり心地よい。 ジャスミンの生花をつないだ数珠がわりの腕輪を手首からそっとはずして供え、手をあわせる。 あの時、私は異国の仏になにを祈ったんだったろう? 旅の安全?それとも恋の成就? あの頃、好きだったのは誰だったろう? ・・・トオルくん?それとも・・・。 なにを祈ったか、誰を好きだったかは、とうに忘れてしまったけれど、 あの時のやわらかな風の感触は覚えている。 “官能的な風”というものがあると知ったのは、あれが初めての経験だった。 映画のなか、エマニュエル夫人がうすものをはおり、 ものうげに足を組んでいた孔雀みたいなゴージャスな籐椅子に腰をおろすと、 シルビア・クリステル嬢ならずとも、なにやら突然のめくるめく出会いなんぞに 身をまかせてみたくなるのだった・・・・。 なんちゃってなんちゃって! 身のほうはともかく、旅先では財布のひもがゆるむのだけは確かなことで。 ホテル内のブティックであれこれ土産ものを探していると、 サリー姿の女性がハロハローと近づいてきた。・・・・・ [続きを見る]

ピチピチランラン♪

親知らずを抜いた。 「虫歯もできてるし抜いたほうがいいですよ」 歯医者はあっさり言うけど、ひえ~~っ、やだ、怖いよぉ。 「ま、次回まで考えておいてください」 憂鬱なわたしは、いい年して、帰るなり親に相談する。 「そりゃ、抜くべきよ。抜きなさい」 珍しくきっぱり、母が言う。 年下の友人は、小さく眉をしかめる。 「なにいってんですか?そんなもん、抜くに決まってますよ!抜くでしょう」 あ、は、はい。 「痛くないですか?ホント痛いのダメなんで・・・・」 毎回、治療のたびに言わずにはいられない。 大丈夫ですよと一言言ってくれればいいのに、先生はいつも 「痛かったら、左手あげてくださいね~」の一点張り。 嘘でもいいから、愛してるって言ってよ~~~! ??って、ちがうか(へへ) ともかく、なんでもいいから、すがるような気持ちなワケです。 痛みといえば、出産! 鼻の穴からスイカが出てくるみたいだとか、 をめくって全身を裏返しにされる!!!ような痛みだと聞いたことがあるけど、 それってほんと??!!! 女は元来痛みに強いから我慢できるけど、男には絶対耐えられないだろうって。 むろん、そこまではいかないけど。 以前、親知らずを抜いた時は、メリメリ音がして、アゴが砕けるかと思ったほど。 麻酔は効いてるはずなのに、抜けた瞬間、涙が流れたもん。 反応ってやつ? 30年くらい前のことなのに、痛みの記憶はしかと残ってる。 まったく。 月にロケットが飛ぶ時代に(ふ、古すぎる言いまわしだわ(~_~;)、なんでこう歯医者だけは進化しないんだ。 拷問とどこが違うんだ?! って、ついこないだ進歩に感心したのも忘れ、 年前と同じ恨みにも似た思いで目をつぶるわたし。 苦い下麻酔シュッシュ、注射ぐぐっ、 ぶわん、上あごの一部や歯茎周りがどんどん鈍く腫れてく感じ。 「少し押しますよ。どうですか?痛いですか?」 んもごんもご、イタイ・・・左手を振る。。 「じゃ、少し麻酔たしましょうね」 注射針、くいっ。 「今度はどうですかぁ?」 ギシギシッ。圧迫感あるけど、イタ・・・くはないか? 薄目をあけ指で丸をつくると、 がヤットコのようなものを手に取るのが見えた。ひゃっ! 「じゃ、いきますねぇ~~」 え~~~~っ!!中世から進化してないまん・・・・。 「ハイ、抜けましたよ」 まかよ~~~っって、心の絶叫が終わる前に、あら済んだの、もう?! 血止めの綿をかまされながら、 「шИy*≋*◎ИД☆шИy☆~~~」 今までで一番痛くなかったですぅと言ったつもり(へへ) 「あ、どうも」 苦笑する先生。 「よかったですねぇ」 と、助手のみなさん。3名もいたです・・。 照れ笑いしながら、治療室を出るも、ちょうど来あわせた老婦人に、 「ホヒャヒャハひゃフニャランひゅ」・・・・・ [続きを見る]

春は本当にくるの?

弥生3月 そう口にするだけで、なんだか春が少し近づいた気がする。 実際、我が家の台所では、まだオリーブオイルが凍っていて、 仲良しがボケ防止にいいらしいよと送ってくれたココナッツオイルも、 ごりごりに固まっているけれど。 本当に春はくるんだろうか? 珍しく、そんなことをつぶやいたのは、 この2月がなかなかの激動の日々だったからにちがいない。 ご近所ではもう誰もやらなくなってしまった豆まき。 節分の日に、母と二人、大きな声をはりあげ、 居間や寝室はもちろん、トイレやお風呂の窓まであけはなち、 鬼は~外~~~っ、福は~~うち~~~っと 叫んだあたりまでは良かったのだ。 その後、東京には40数年ぶりという雪が降った。 私は仕事ででかけ、午後4時過ぎには、すっかり忠臣蔵みたいに雪で覆われた街を、 ずぼんずぼん埋まりながらJRの駅までたどりついた。 いつもなら7分程度だが、急な坂道もあったりして きゃぁきゃぁひゃあひゃあ、倍の時間はかかった。 頼みの山手線は大幅な間引き運転をしていて、10分待っても15分待っても来なかった。 すごいでしょ?たかだか10分で! でも、いつもは、ものの2分おきとか来るんです、山手線って、本当に。 やっときた山手線は週末だというのに、通勤ラッシュ並みの混雑で、人いきれと湿った空気がむされたので、なんともいえない臭いがした。 一応長靴をはいていたが、はるかに深い雪で、靴のなかはびしゃびしゃだった。 私鉄に乗り換えると、さらに最悪で、たった1駅なのに、えんえん待たされた。 ええ、ええ、わかってますって。 北国の人からみたら、たかだか数十センチの雪で ぴいぴいぎゃぁぎゃぁ大騒ぎしてる東京の人がバカみたいにみえることくらい。 わたし自身、なにしおう豪雪地帯・富山生まれの北海道育ち。 雪には慣れてるし、いつもたかだか数センチ積もっただけで、ニュースになったり、 救急車が出る騒ぎになるのを、アホか?ってな思いでながめていた。 でも!でも!!でも!!! 今回の雪は、本当に手強かったんです。 ってか、2週続けて降ったのが、まずかった、ってか痛かった。 最初の雪のときは、大変だなんだと騒ぎながらも、 まだゆとりと言うか歓びのようなものがあった。 それが証拠に、我が家の駅に降りると、駅前に、大きな雪だるまがこしらえられていた。 駅員さんと交番のおまわりさんが、まだ一緒に雪かきをしてる姿も なんかちょっと良かったりして。 友人からの写メには”普段はつまらない夫が珍しくお茶目なことをしたので送ります”と、 やけに首の細いスフィンクス!の雪像が添付されていたりした。 古希を迎える横浜の友人からも、ベランダの手すりの上につくった 雪だるまの写メが送られてきた。 大人もちょっとはしゃぎたくなるような大雪だったのだ。 1週間後の週末、ふたたび、大雪となった。 しかも、今度のは、水分が多く、降ってる先からシャーベット状になり、 そいつが凍りかけているところへどんどん雪が積もっていくという、 たちの悪いやつだった。 わたしはどうしても仕事で出かけねばならず、 長靴に大量の防水スプレーをして、家を出た。 玄関から門扉まではわずか数歩。 ところが、雪がびっしり降り積もっていて、門扉があかない! そんなこともあろうかと、夜中に門扉の前を雪かきしておいたのだが、 まったく用をなさなかった。 それぐらい、一晩で大量の雪が降っていた。 オーバーに言えば、ひざくらいまである雪を両手でかきわけながら、すすんだ。・・・・・ [続きを見る]

日進月歩

イタリア・ミラノ。 電車の切符を買おうとすると、駅員が 「ハルモニ。年はいくつか?」 と聞いた。 ハルモニ?・・・それって、韓国語でおばあさんってことだけど。 わたし、韓国人にまちがえられた? 首をかしげながらも、「61だけど」と告げると、 「あぁ、なら安くなるよ」と言われ、財布をじゃらじゃら探すのだが、 日本円とイタリアの小銭がまじりあって、わたわたしてるうちに、 電車が来て、いってしまいそうになる。 「モメント!」 駅員がとめてくれたのに、車掌はにやり、ドアを閉めてしまう。 「ちょちょちょちょっ!!」 あわてて、ドアをたたいてるときに、 「もう、またつけっぱなしっ!」 母の声で、目が覚めた。 イタリアでもなんでもない、そこはいつものわたしの部屋で、 わたしは、またテレビをつけっぱなしのまま、寝てしまっていたのを、 夜中、トイレにたった隣室の母に見とがめられめたのだった。 還暦プラス1年めの誕生日の目覚めがこれって、 う~~んっ、どうでしょう。 もはや、人生も春夏秋冬・晩秋にちかづいているというのに、これって・・・・。 でも、こんなもんなのかなぁ。 いぢわるな車掌がしめたドアは、一応また開いたけど、 これって、なにかの、暗示だろうか? これからのわたしの一年を象徴してる??? そういえば、こちらは夢じゃなく、 三日前、トイレの水が突如、止まらなくなった。 夜の11時をすぎて、水道屋さんも呼べない。 そういえば、昼間、クリニックで待ちあい室の『クロワッサン』に、 “水洗が止まらなくなったとき”って特集があったぞ! たしか、まず、便器の横の元栓を閉めろとあった。 なんて、ラッキーな偶然!! もこれが”テュケー”ってやつ???? アリストテレスだかだれかが言った、いい偶然っつうか、〝運”みたいの。 だが、運の悪いことに、うちのトイレは、元栓がついてないタイプなのだった!! く~~~~っ。 あわてて、ネットをしらべれば、格安緊急コールの文字がおどるばかり。 なんだ、宣伝かよ。 まれに変わり種で”12時間流しっぱなしでも、水道料金は3千円以内だからご安心を!!”って 経験者のありがたいんだかなんだかよくわからない話とか。 さすがに、TOTOは、タンクの構造とか漏れの状況別なんたらとかサイトがあったけど、 これがまた活字が小さくて全く読めない! 一人で修理できるのもわかったけど、それもすべては水を止めてからの話なのだった。 そりゃ北海道には負けるけど、極寒のさなかパジャマ姿で 懐中電灯片手に庭の奥の水道栓を探しに行くってさ。 世をはかなむ気になりますぞ。 まして、栓はみつかったものの、重い蓋がついていて、 ドライバーで引っ掻けようがなにしようが持ち上がらないとあっては!! どうなっちゃうのぉ~~~~! 結局、うでが悪くて評判?のとなり(!)の工務店のおやじに来てもらって、 しばしの格闘の末、元栓しめてもらい、とりあえずは事なきをえたのですが・・・・。 いやぁ、それにしても、単にトイレの水が止まらないってだけで、 これだけ、パニック気分になるとは・・・・。 人の日々の暮らしって、本当にささやかな均衡の上になりたっているんですね。・・・・・ [続きを見る]

悲しい旅

母とふたり、晩秋の京都を訪れた。 雲ひとつない空は、どこまで青く高く。 わずかにひいやりした空気のなか、秋の透明な陽射しに光り輝く金閣寺は 美しいを通りこし、もはや清らな別世界だった。 すがすがしく、心洗われ、なるほどこの世の楽園やもと、 ありがたくなにやら善きことが我が身にもふりそそいできそうな恩寵感にみちていた。 「ありがたいわねぇ。こんな気持ちのいい景色見られて。何の心配もなくて」 ほっと嘆息する母とふたり、カメラにおさまった。 「どうしよう!帰る家がわからない!」 母が突如、通路をはさんだ席のわたしの腕をガっとつかんだのは、 それから、ものの1時間たらずのこと。 宿をとった大阪にもどる車内でのことだった。 紅葉シーズンまっさかり。 観光客で混みあう車内で、とりあえず母をすわらせ、 わたしはしばらくちょっと離れた位置で立っていた。 特急でいくつか目の駅で、すぐ近くの席があき、わたしもすわったのだが、 窓の外はいつの間にか、真っ暗になっていて、 つい先ほどまでの穏やかな陽射しにみちた世界とは、あまりに様変わりしていた。 「どうしよう、おかあさん、頭がおかしくなった!!」 母は涙ぐんでいた。 「大丈夫よ。ちゃんと、帰れるから」 「ほんとう?でも、わかんないの。駅からの道が。 自分の蹴る家がわからないの、どんな家か、思い出せないの」 あぁ、ついにきたのだ・・・!と思った。 やっぱり、おかしかったのだ・・・と思った、 83才にして、母はついに記憶を失い始めているのだ・・・。 この3か月ほど、なんだかちょこっちょこっと変なことがおきていた。 食器がいつもの棚とはまるでちがう場所にしまわれていたり、 ご近所マージャンに行きたがらなくなったり、 好きな韓流ドラマを見ようとしなくなったり、お風呂をめんどうがるようになったり。 いまになって思えば、それらはすべて認知症の初期症状なのだった。 が、単なる老人性のボケと認知症は違うからと、 行きつけのクリニックでもいわれ、 むしろ、「お母さんをあんまりいじめないようにね」などといわれ、 内心、わたし自身もほっとしていたのだった。 それが、この1か月ほど前から、日付がよくわからなくなった。 「今日は何日?」と、朝聞かれるたびに、わたしはつい怒っていた 「そんなもん、カレンダー見ればわかるでしょうよ」 「え?・・・今日は、何曜日なんだっけ?」 「だからさぁ、昨日は日曜だったでしょ?てことはいつよ?」 「・・・水曜?」 「はぁっ??なに言ってんの?おとぼけねぇ」 「ええっ・・・あ、そっか。新聞見ればわかるんだわ。今日の新聞、今日の新聞」 曜日はまれにすぐあたることもあったが、はずれることのほうが多かった。 極めつけは貯金通帳だった。 これまで、家の一切は母がとりしきっていた。 わたしは事務手続きとかが苦手で、 役所の届けなども一回ですんなりすんだためしがなくて、 その手のことはすべて母におまかせだった。 家の自分の家計簿も自分の確定申告も、なにもかも母まかせ。 それで、まったく問題なかった。今の今までは。 それが、3月ほど前。 貯金の通帳が見当たらないと、大騒ぎのあげく紛失届けをだした。 その直後、どっかのひきだしから、ひょっこり通帳が見つかった。 「あぁ、泥棒にはいられたらと思って、かくしたの忘れてたわ!・・・・・ [続きを見る]

みつあみ

朝7時15分。 ラッシュのはじまる山手線。 始発側のホームで次の電車を待って並んでいると、 こぎれいな身なりの女性がひとり、列じゃない場所にたたずんでいた。 横入りする気か?と若干けん制ぎみに、ちら見して列に並ぶ人々のかたわらで、 彼女はどこかひっそりした空気を身にまとい、前方をみやっていた。 謎は、じき、とけた。 目の前の電車が発車する寸前、彼女は胸のあたりで小さく手をふった。 声には出さなかったが、”いってらっしゃい”と、唇がうごいた。 幼い少女が、電車の中から手を振るのが見えた。 学校に通う子供の見送りにきていたのだ。 娘を見送ると、彼女は静かに踵をかえし、エスカレーターのむこうに消えていった。 数日して、同じ時刻、運よく座れて発車をまっていると 可愛らしいセーラー服姿の女の子が乗ってきて、扉のすぐわきに立った。 先日の若い母親が、ホームの向こうから、身をのりだし、なにごとか少女に伝えた。 少女がこくりとうなずくまもなく、扉が閉まった。 ドアの向こうで、彼女がやや心もとなげに小さく手をふるのが見えた。 あの美しい母親は、毎朝、こうして幼い娘をホームまで送り、 無事乗るのを見届けてから、一日をはじめるのだろうか。 (入場券の定期ってあるの?) 1年生と思しき少女は、次の目白駅でおりるまで、ずっと、扉のむこうに目をむけたままだった 襟に赤いラインのはいった紺色のセーラー服は、いかにも名門私立といったふうで、 少女の三つ編みによく似あっていた。 子どものころ、みつあみは、たいてい、お母さんが結んでくれる。 朝、忙しいときなんか、お母さんは、よく小言を言いながら、髪をとかしてくれたもんだ。 「だから、早く起きなさいって言ったでしょ、ほら、頭動かさないっ!曲がるっ!」 でも、子供ってやつは、なんでか髪を結んでもらってる間も、じっとしていることができない。 ・・・・それって、わたしだけ? いや、そんなはずないな。 女子なら、必ず、同じ記憶があるはず。 昔のゴムひもは、輪っかじゃなくて、文字通りヒモだった。 よく、おかあさんは、片手で髪の束をつかむと、黒いゴムひものはしを唇でくわえ、 もう片方の手でそいつをきゅっとひっぱり、ぐるぐるキュキュッと巻いて結んでくれた。 あぁ、思いだす。 今はすっかりボケくさって、死ぬほど濃いみそ汁をつくっては、 わたしにがみがみ言われてる母が、 冬の日差しでぼんわりあたたかくなった縁側にわたしをすわらせ、 髪を大きな櫛でていねいにとかしてくれていた日々があったこと。 わたしは早く遊びにいきたくて、もういいよと、途中で腰を浮かしかけては、 「いいから、じっとして」と、髪をひっぱられて、 「あいたたたっ」と悲鳴をあげては 「もう、おおげさなんだからっ」と、さらにきゅっ、とやられるのが、常だったこと。 手塩にかける・・・って言い方、今どき、まるっきり耳にはしないが、 あのちょっと心細げに手を振っていた母親は、 お嬢ちゃんを手塩にかけて育ててるんだなぁ、今、まさに。 そして、はるか半世紀前のわたしも、 けっこう手塩にかけられていたのかも・・・・。 すっかり忘れていたけれど。 そういえば、子どものころ、わたしがもっていたお人形は、なぜか金髪だったりした。 その髪を小さな櫛でときながら 「さぁ、きれいにしてあげまちゅよ」とかいいながら、よく三つ編みをむすんでは、 ガサガサこんがらがって、どうにもひどいことになって、 頭にきてはさみで切ってしまった・・・。 ね、あるでしょ? あれ、何が悲しいって、お人形さんの髪って、ミシンで渦巻き状に・・・・・ [続きを見る]

夏の終わりの正しいエロ

わ、わたしはカエルか?! いつから、両生類になったんだ?? ってくらい、汗が全身からふきだしている。 手の甲なんか、一面べったりじっとり。 人間、気温が38度も超えると、 いつも通りフツーに息するのもむずかしくなるもんなんですね! 金魚みたくパクパク口あけて呼吸しないと、 酸素が肺まで入ってかない感じって、ひどくないですか? で、足とか腕とか、ちょっと強くこすると、 垢がねりょっと糸みたいに丸まって出て・・・・。 汚っねぇ~っ!!って?? そ、そ、そうなんすっ。 ちゃんと、毎日お風呂入ってるのに! いや、毎日どころか、この夏はいつにもまして多く、1日3回も4回もお風呂に入ったぞ! 入るっていうより、湯船につかるっていう方が正しいけど。 シャワーなんかじゃ、全然ダメで。 温度はきわめてぬるめ、35度。 ほとんど水風呂。 足入れると、ひやっとするこの水風呂に、 首までとっぷりつかって、じぃ~~~~っとすること、3分?5分? やっとこ、クールダウンがきいて、生き返り、 でも、あがってものの10分ほどで、またカエルに逆戻りってさ! どうなってんの~~~っ?? うっそ~~~っ!もう汗ふきでてる~~~っ!! で、またざぶ~~ん、じぃ~~っのくりかえし。 この夏は気温が体温を超えるなんて日が何日も続いて、 ひときわ過酷だった。 「生きてるだけで精いっぱいだね」 「地球はこうやって、われわれ人類を淘汰してくんだね」 本気でそういいあった。 「どうする? この夏が永遠に終わらなかったら?」 「大丈夫だよ。永遠に終わらないものなんて、この世界にはないんだから」 高校生くらいのイケメンくんが言ったら、胸キュンしないでもないセリフを、 60歳の還暦女どうしがいっても、なんだかなぁ~っ・・・。 けど、カエルでもいいこともある。 じとじとの肌は、なんだかいつもより、ぷっくらみずみずしいではあ~りませんか? 最近、めっきりカサカサして、若い知人のスマホを借りて、 でひゅいっとやっても、画面がかわらなくて、 「あぁ、ホントなんっすね。高齢者、うるおい足りないから、スマホ使えないって・・・」 と、感心(!)された身としては、 あきらかにちょっと張りをとりもどした自分の手の甲をば、 しばしうちながめるのでありました。 9月のお彼岸だというのに、東京はまたもや30度超え。 でも、中秋の名月は、本当にみごとだったし、 大合唱だった蝉の声もいつしか消えうせ、 今は、リーリー、虫の音が夜風にのってきます。 確実に、秋は近づいてきているんですね。 北海道じゃ、もう、スタッドレスタイヤのCMがバンバン流れ出してるって、本当ですか? 「もう来年から夏はなくていいよ・・・」 「うっそぉ?いくら。なんでも大胆すぎない、それ?」 「やっぱ、夏はあったほうがいいよ」 「いや、私は断固なくていい!」 肘の手術なんかして、只今リハビリ中の友人は、そりゃぁきっぱり断言したものだった。 う~~~ん。どうでしょう?・・・・・ [続きを見る]

どこかでアモーレ

「西表島にきています。 写真ではよく見えませんが、マングローブの向こうは、 ウミガメが卵を産みにくるという”月の浜”です」 友人からメールが来た。 エ~~~っ、いりおもて~~~っ!?! うらやましすぎる~~~っ! というわけで、さっそく、その写真をはりつけ、 仲良し数人に偽せメールした。 「思いたって、西表にきています。 満月の夜、ウミガメが産卵にくる”月の浜”がすぐ目の前です」 即、返信が来た。 「なんだって~~~っ!聞いてないよ~~!誰と??お母さん?? く~~~っ!!たっぷり命の洗たくしてきてね」 「いいないいな。京は3日連続の猛暑日で死にそうだってのに!!」 「沖縄なんて夢のまた夢。小樽はまだ梅雨寒です」 「わっはっは。ひっかかった!! うっそぴょ~~んっ。友達が行ってるだけだよ~~~」 偽せメールのコツ(?)は、すぐばらすこと。 「う~~む、またやられちゃったよ~っ!!」 「うそでも、つかのま、南の島を思って、いい気分転換になりました。 いつか、一緒に本物の旅行ができたらいいな」 「もうぅ、何も言ってなかったから、ヘンだなぁとは思ったんだ。 旅行中のお友達に、ウミガメの写真とれたら、よろしくって伝えてね」 あらら、リクエストまで(へへ) 昔から、この手のことは得意だった まだ海外旅行が今ほどポピュラーじゃなかったころ。 旅に出る友達がいると、絵葉書をたくし、現地から投函してもらった。やれ、パリだ、ニューヨークだ。 エッフェル塔やエンパイアーステートビルディングとかの絵葉書って、けっこうそこらで売ってるんで。 文面はいつも、たいがい、こんな。 “心は、いつも旅の空 。 元気にしてる? ” 「いったい、いつ行ったのよぉぉぉ?」 「どうだった?どこ回ったの?市場とか行った?」 相手の反応も、今のメールとさほどかわらない。 「だからさ、”心は”って言ってるじゃん」 私がニヤニヤすると、初めて 「あ~~~、だまされたぁ~~っ」 って、くやしがるのも、同じ。 ロンドン、プラハ、ヴェネツィア、上海 この手で旅した地は、数知れず。 あ、それだけ、いろんな友達がいろんな場所に行ってるってことか。すごいなぁ。 自分が旅に出る時も、ちょこっとだけ、工夫(?)した。 友達の写真を切り抜いて行って、現地の絵ハガキにはりつけ “街を歩いていたら、美しい日本人を見かけました”とか “遊覧船で、そっくりな人を見かけてびっくり!”とかね。 そっくりも何も、当人の写真だっつううの(^^) でも、これはウケた! 最近はめっきり海外にも行けなくなってしまったけど。 いつか、また”え~~~っ”って 笑ってもらえるハガキが出せたらいいなぁ。 やっぱり、ちょこっと楽しいがいいな、人生は。 ってか、毎日の暮らしは。 しかめっつらしてても、同じように一日はすぎていってしまうんだもの。 こないだ、久しぶりに見たウディ・アレンの新作。 『ローマでアモーレ』も、そんな映画だった。 永遠の都に、何組かの旅行客がやってきて、恋したり、迷子になったりetc。・・・・・ [続きを見る]

笑いながら、わたしたちは・・・

“おっはあ~。 ティッシュ持ったか? 宿題やったかぁ? 顔洗ったかぁ? って、朝っぱらから、ドリフかよ?(へへ) ともかく、忘れものしないでね。 明日の予定決まったら、即、ご連絡あれ。 願わくば執刀医がイケメンでありますよう” 早朝、そんなメールを送ったのは、友人が入院するからだった。 一切親族のいない彼女は、最初、名前だけ貸してくれといってきた。 「あのさ、手術の保証人のとこにノンちゃんの名前つかっていいかなぁ?」 「いいけど。なに、サイン偽装すんの?」 「うん。いい?ほら、あんま時間ないからさ、三文判買ってきて適当に書いちゃおうかと思って」 「いいけど。手術とか、いいの、立ち会いいなくて」 「うん。大丈夫。いいって。へへ。一人でも平気だから。心配しないでいいよ」 しっかりもののTちゃんは、受話器のむこう、からり笑った。 少しして、メールもきた。 “旅行同様、天涯孤独な人間は、入院するのも一人じゃダメそうです。 今回は肘だからイイけど、これが脳とかもっとほかの手術だったらきっとすごく面倒なんだろうね。 こういう、入院だぁ手術だぁってことになると、「おひとり様」は世間から浮きがちだね。 特に私は親戚もいないしね。 こないだ実母の相続を処分するって決めた時、自分の戸籍謄本を見て、つくづく思ったんだよね。 なんてシンプルなんだろうって。” 詳しい事情はしらないが、いわゆる腹違いの姉妹が何人もいたり、 やれ産みの親だ、育ての親だと、彼女の家が複雑らしいことは、 学生時代からうすうす知っていた。 だが、複雑なはずの彼女の戸籍謄本には、 父の名前と実母の名前、そしてその下に彼女の名前があるだけだった。 “姉妹とも実家とも縁を切った私だけど、そんなことしなくても 彼らとは父を介しての縁しかなく、父親の死でそれも終わっちゃってたのねぇ・・・・。 やらずもがなのことしてたんだねぇ~” ともあれ、入院前に一度会おうよということになった。 彼女の指定で、ウイークディの夕刻、新宿ピカデリーの地下 、無印良品がやってるカフェで、待ち合わせた。 んんん??いないぞ・・・と思ったら、入り口からまっすぐに見える奥まったテーブルで、 本を読んでいる”きれいなお姉さん”風な人が目に留まった。 うっそ、Tちゃん? 「ねェ、髪切った?なんか、可愛くなってんだけど」 私が文句(?)を言うと、彼女は苦笑した。 「変わってないよ。気のせい」 「いいよねェ、気のせいで、若くみえるんなら」 そこへ、もう一人の友人が到着した。 「ね、ね、ここおしゃれね。さすが、Tちゃん。 わたしなんか、こんな若者のくるようなとこ、もう全然よ」 K子はあたりをキョロキョロしながら、腰をおろす。 MUJIカフェのテーブルは、書き物にはぴったりだった。 Tが書類をとりだし、私は神妙な面持ちで、手術と入院の承諾書にサインをする。 と、K子がひそかに笑いだす。 「ねぇ、ノン、それ冗談?なに、その釘みたいなの。字?」 Tがあきれる。 「冗談じゃないよぉ。ちゃんと書こうとするとこうなるんだっつうの」 おもえば、私、はるか昔、OLをやめるにあたって退職届をだしたところ、 「なんだ、これ。ふざけんてんのか?」と、受理されず、 書き直しになったという経験があるのだった!!! そう、緊張すると、なんか字がばらけて、解体してしまうんでありました・・・・。・・・・・ [続きを見る]

作家
: 正本ノン
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星座
: 水瓶座
血液型
: A 型

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第2・第4・第5土曜日、日曜日、祝日

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